音ことば

先日、昼食をとりながらテレビをなんとなくつけていた時のこと。「音を科学する」という特集の番組がはじまったので、つい見入ってしまいました。

「音の正体は振動である」という科学的事実が示されたあと、身の回りにある音を探し、どうやってその音が発生するのか、つまり何が振動して音になっているのかをつきとめるという内容でした。
落ち葉を踏みしめる音や焚き火の音などが取り上げられ、その振動体をハイビジョンカメラで精密に撮影した映像が流れました。最先端の技術でここまで撮影できるんだなあ、と感心しながら見ていると、「水滴の音」をクローズアップした実験というのが始まり、興味を引かれました。

水滴が水面に落ちるときの「ぽちゃん」という音。
いつも当たり前のように聞いている、なんでもないような音ですが、科学的に見ると結構興味深い現象のようです。

その実験によると、なんでも水滴が落ちる音というのは、水滴が水面に衝突したときのただ1つの音だけではないというのです。大きなしずくが落ちるとき、同時に小さなしずくができて後から落ちていくというのが、水滴が落ちるときの特性だそうで、大きなしずくが水面に衝突して出来た「くぼみ」に、その小さなしずくが衝突することによって空気が振動し、あの「ぽちゃん」という音になるそうです。つまり、しずくが落ちる一瞬のうちに、複数の音が出ていることになります。

ここで改めて考えてみると、「ぽちゃん」という擬音語がそもそも複数の音を表しているということに気づかされます。実験になぞらえると、「ぽ」が最初に大きなしずくが落ちる音、「ちゃん」が後から小さなしずくによって生まれる音、というように捉えることができます。その番組では、「擬音語のような曖昧なものも、科学的に裏付け、説明することができるのだ」と伝えたいように私は感じました。

しかし私はむしろ、しずくが水面に落ちる美しい音を「ぽちゃん」という言葉で表現した人間の感性こそすばらしいと思いました。もちろん科学の力を認めないわけではありませんが、科学によって証明されてはじめて「ぽちゃん」という擬音語が作られたわけではないのも事実です。もうずっと昔から、人間はその音を“知って”いたのです。
もちろん、科学的に証明された“複数の音”を聞き分けていたわけではないと思います。言葉では説明しがたいその音の感じを「ぽちゃん」と言い表した感性、またそれを当たり前に共有できていることの不思議に、私は感動したのです。

音をはじめ、私たちの世界には言葉では説明しがたい現象がたくさんあります。視覚、聴覚、嗅覚、身体感覚など、感覚でとらえられるものが正にそうだと思います。
しかし、私たちは実際、嘘や空想などではなくそれらを感じ、表現することができるのです。太鼓を練習していても、「ここは流れるように」とか「もっと弾むような音で」とか、目には見えないはずの音を視覚的な表現で言い表しても、奏者同士で理解しあうことができます。さらに、そのような音を目指して変わっていくことができるのです。

自然科学で客観的に証明できることも「事実」ですが、人間が“主観”や“感性”で感じ取ることもまた「事実」なのだと、改めて思ったのでした。