目指すことのためにすべきこと

 昨年12月、2010年最後の練習にて、川口先生から学生組に“冬休みの宿題”が配られました。それは、「学生組の練習課題・個人の練習課題」と書かれた用紙でした。 今自分ができることを確認すると同時に、今後自分は何がしたいのか、そのために今何をしたらよいのか、休み中に考えてくるように、という宿題でした。

「年が明けて、次の練習までにそれぞれ書いて提出!」

と決まったものの、急な演奏依頼などもありなかなか時間が取れずにいました。先週の練習で、それぞれ書いてきた紙を持ち寄り、やっとみんなと話し合うことができました。

●先を見据えた「今すべきこと」を考える

 

 学生組にとっての大きな目標の一つに、9月の「大学祭公演」があります。大学祭の2日間、能舞台イベントとして例年約1時間程度の公演を行っています。その大学祭に向けて、今から誰がどのような練習をしていったらいいか、みんなで話し合いました。9月なんてまだまだ先の話…と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。

 

 太悳で取り組んでいる演奏曲では、いろんな楽器が用いられます。長胴太鼓、締太鼓、桶胴太鼓、鳴り物、篠笛などです。また、同じ太鼓でも曲によって打ち方が違いますから、おのずと習得しなければならない内容も異なってきます。姿勢や、打つ方向も様々ですし、(横から打ったり、据え置きで上から下へ打ったり、大太鼓のように正面から打ったりするものもあります。)桴さばき、目指す音や動きの表現も、曲によって一つひとつ違ってくるのです。もちろん、これらは曲を覚えた(暗譜した)ところからはじまる話です。

 

 見てくれる方、聴いてくれる方が、何かを感じてくれるような演奏を目指すとき、1曲仕上げるのにも相応の練習が必要となります。1年生からずっと練習してきて、4年目にしてやっと舞台で演奏できるレヴェルに達することができる、という曲も少なくありません。このようなことを考慮すると、多忙な前期授業期間を乗り切り、夏休みに入ってから「大学祭であの曲を演奏したいなあ…」と希望を持っても、“演奏できる人がいない”という現実に直面してしまいます。大学祭は4年生最後の引退公演でもあるため、メンバーが毎年変わる学生組にとって、これは大変に悔やまれることだと思います。だからこそ、今からの“貯金”が必要となってくるのです。

 

●技術が先か、表現が先か

 

「リズムの練習をするのも必要だけど、まず振付を練習して、動けるようになってからの方がいいのでしょうか?」

 今後の課題を話し合う中で、ちゃっぱという楽器に憧れている1人の学生から、このような質問がありました。確かに、リズムだけ練習していて、いざ動きながら演奏しようとしたときに全くできなくなってしまう、ということがありますから、そのように発想するのも不思議ではありません。これはスポーツや演劇などでも、いろんな場面に当てはまりそうなので、太鼓をやったことがなくても想像に難くないと思います。皆さんならどちらを先に練習しますか?

 もちろん、どちらもいずれは練習しなければならないのですが、今回の場合、川口先生はこのように答えました。

 

「両足で立つことのできない人が歩くことはできないし、止まったままキャッチボールのできない人が走りながらキャッチボールはできないんだ。それと同じだよ。」

 

それを聞いた学生は、はっとしたように「ちゃっぱ練習します!」と言っていました。

 先生の言葉は、その楽器を鳴らすことのできない、あるいはリズムに慣れていない人が動きだけ練習しても、それは「そのような振付」以上の意味を持つことはない、“別物”になってしまうのだ、ということを意味していたのだと思います。なぜなら、和太鼓では舞踊のように、動きによって表現するということも確かにありますが、それは“演奏”、つまり音の表現を前提にしているからです。染み付いてしまった“別物”の動きを解消化しながらの新たな形態化に向けた練習、というのでは、その道程はより複雑さを増してしまうのかもしれません。

 

 演奏法は、単なるテクニックではなく「何を表現したいのか」という本質的な部分、“感覚としての意味”がにじみ出てくるのでなくてはなりません。結果的にそのわざができるようになりさえすればよい、というものではないのです。しかし、その動き、その桴さばきでなければ表現できない音がある、というのも事実です。「こういう音を表現したい!」と強く思ったとき初めてそう動ける、ということがあります。“わざと心”、“型とその意味”といった問題は、安易に因果論的には語ることができないでしょう。

 

●話し合いの行方

 

 話し合いの中で、それぞれが演奏したい曲、挑戦してみたい楽器やパートを確認しあうことができました。しかしながら、学生組全体にとっての必須課題は、何といっても演奏できる曲数を増やすこと!です。部員数が少ない今、自分がやりたいパートのみできるようになっただけでは不足といえるでしょう。そこで、大きな目標として決まったのが…

 

「全員が全部覚える」

 

です。

 簡単なことではないと思いますが、演奏したい曲を能舞台で演奏できるように、一回一回の練習を大切にしていきたいですね。

 

Gozu Yoshino